2016年10月2日日曜日

なぜいまの中国でも字幕組を必要とするか(下)

なぜいまの中国でも字幕組を必要とするか(上)

 前の記事では、字幕組が必要とする一つ目の理由を紹介した。この記事で残り二つの理由を紹介し、今回中国人が逮捕された中国国内の反応と今後予測の動きについても少し言及したいと思う。

 
 ②見るアニメが多いならダウンロードしたほうが楽というせつ
 日本ではテレビで録画して視聴することはまだまだ主流で、ネット上で視聴する場合、有料動画配信サイトに月々何百円払えば、基本今季のアニメ全部見られる。しかし、中国の動画サイトの場合、有料会員になっても全部アニメを見たければ、複数のサイトを使わざるをえない。「中国動画サイトの「大航海時代」が来臨、ニコニコ動画もそろそろ中国に進出したら?」この記事で紹介したように、放送権は各サイトによって分散されている。
 結局のところ、各サイトのアカウントを作り、複数の動画サイトを利用することは手間がかかる上、広告も見なければならない(60秒以上飛ばせないCMがほとんど)。そのほか、無料会員が見られる画質、コンテンツの種類も制限されている。例えばtudouでは、無料会員が見られるのは720Pまで、ハイキュー!!やジョジョなど独占放送コンテンツは別料金。有料会員ならもちろん無制限。こういった制限を外したいなら月々15〜30(300〜800円)元程度払えば安く済むと思うかもしれないが、複数サイトを利用するとそこそこいい出費になる。
 オンライン視聴と比べ、字幕組が作成したアニメをダウンロードする場合、少なくとも無料かつ高画質、広告なし、複雑なアカウント管理が不要と言ったメリットがある。また中国の「国家新聞出版広電総局」に検閲されるリスクを回避することもできる。

 業界内部はどういう仕組みでできているのか私には分からないが、今ネット配信に関する2部の法令[注1]から推測だと、tudouやyoukuなど中国大手動画サイトは中国国家新聞出版広電総局発行するなんらかの許可証を持っているはず。これは自社で放送内容を検閲できることを証明するものであり、国家新聞出版広電総局の直接管理を介せずにアニメ放送することができるあくまでも個人の推測であり、詳細は後日記事にて紹介する)。ただし、放送後悪い影響が出てて国家新聞出版広電総局がクレームを受ける場合、国家新聞出版広電総局は放送中の作品を中止させたりする権利がある。中国で「甲鉄城のカバネリ」が一度放送禁止になったことはおそらくこの仕組みが動いたからであろう。

 つまり、放送決定のアニメでも突然視聴できなくなる可能性があり、また暴力シーンやエロいシーンが最初からカットされることもおかしくない。こう言ったリスクを回避する手段の一つとして、字幕組が存在している。国家新聞出版広電総局が動画サイトの運営会社ごとに命令を出せばオンライン視聴の規制は効くけれども、ダウンロードはあくまでも個人行為なので(字幕組も広い意味での個人行為)、そこまで管理できる余裕はないと思う。結果的に、国・政府の規制から逃す可能性も大きい。この意味から考えると、規制がある限り、字幕組は何らかの形で存在すると思う。


③ここでしら得られない情報量と所属感
 以上二つの原因は利用者側から考えたものであるが、実は字幕組のメンバーとして、字幕組を必要とする理由も存在すると私が思う。具体的な説明に入る前に、予め字幕組の仕事のおさらいをしたいと思う。細かい分担はさておき、字幕付のアニメを公開するには、最低限必要とする手順は以下である。
  • 字幕なし(いわゆるraws)のアニメファイルを入手。自宅で録画しアップロードする人もいるが、tokyo toshokanやnyaaで直接ダウンロードすることも可能
  • 翻訳
  • 校正
  • Aegisubなどソフトウェアを使い、字幕ファイルを作成する
  • 字幕ファイルと動画を結合させる
  • FTPサーバにファイルをアップロードし、ダウンロードリンクを生成する
  • 掲示板/SNSなどでリンクを発表する 
 字幕組内部では、こういったフローができて、実に合理的な組織である。翻訳は普通日本語能力試験N2以上の資格を持たないといけない、初心者でも可。校正はN1資格を持つ人かベテランが担当する。翻訳に関するデスカッションはグループチャットで行う、これで日本語の切磋琢磨ができ、まずは日本語の向上につながる。それに、日本語が分かる人が多いため、ここで交換される情報は翻訳されたものではなく、きちんと日本からの一次情報なので、普通のSNSより数が多く、質が高い情報が得られる。
 字幕組はボランティアだと言われるが、確かに金銭的な報酬がない、ただし代わりに掲示板などオンライン上の「特権」がもらえる。より簡単に限定のコンテンツをダウンロードすることとかができるので、日本語ができなくても字幕作成の手伝いなどをすれば、ある程度のメリットがついてくる。

 言語の壁がある限り、字幕組がないと何もできないので、字幕組は中華オタクたちに尊敬されている存在である。日本と違い、作り手はまだまだ少ないため、字幕組はある程度「クリエイター」としての尊敬が得てる。「オタクカースト」のてっぺんはちょっと言い過ぎかもしれないが、ボランティアでやってる以上、批判してはいけないという悪い風潮はある程度存在すると思う。例え字幕組のやり方や翻訳に不満があってクレームを言ったら普通のオタクに攻撃されてしまい、そしてその際の決まり文句はだいたい「你行你上啊=やれるもんならやってみな」である。

 以上が私が考えた今の中国でも字幕を必要とする理由である。中国側SNSを見る限り、今回の事件への反応が落ち着いた感がある。「残念だが、日本の警察が間違いなし」というような大人のコメントが多数支持を得ている。正式放送が進んでいる中、著作権に対する意識が高まる一方、今まで字幕組のお世話になったという「共犯者」同士の連帯感も目立つ。今後おそらく字幕組を使う人が徐々に少なくなると思うが、しかしアニメ放送は中国でビジネスとして成熟すればするほど、昔はよかったという感慨する人も増えるであろう。

 

 最後までの記事を読んで、「じゃ動画サイトの運営側は字幕組の翻訳を採用したら皆幸せじゃないの」と思う人もいるかもしれないが、その原因はまた次回で分析してみよう。



注1:
主に参考できる法令はこの二部である。
>>《関于加強互聯網伝播影視劇管理的通知》
(インターネットにおけるドラマ放送の管理強化に関する通知)
広電総局が2007年12月29日に発布。
>>《関于進一歩加強網絡劇、微電影網絡視聴節目管理的通知》
(インターネットにおけるネットドラマ及び映画視聴の管理強化に関する通知)
広電総局が2012年7月6日に発布。 

注2:
主な内容: 《互聯網視聴節目服務管理規定(インターネット視聴番組サービス管理規定)》に関連する規定として、ネット上で配信するドラマ (国内外の映画、ドラマ、アニメ、及び相応する音楽・映像ソフトを含む)に関する通知。 インターネットで配信する映画・ドラマ・アニメは、国家広電総局が発行する「電影片公映許可証」(映画上映許可証)、「電視劇(電視 動画片)発行許可証」(ドラマ(テレビアニメ)発行許可証)もしくは「電視動画片発行許可証」(アニメ配給許可証)を法に基づき取得し、 同時に著作権所有者からインターネットにおける映像上映権利を取得しなければならない。これら許可証を所有しない映像に関しては、 インターネットで配信(視聴サービスを提供)してはならない。

参考ソース:
中国コンテンツ市場調査 (6分野) 2012年 11月 日本貿易振興機構 (ジェトロ) 



TBC

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